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4、ゼンツァードの祭壇 フィレア山はそうも険しい山ではない。しかも、ゼンツァードはそう高度の高いところにはないので、三人は楽々と洞窟に足を運ぶことが出来た。その様子を望遠鏡で監視している男が居たのを彼らは知らなかった。監視している男は木の上からそれをのんびりと観察していたのである。男はいつものようにぼろに近い服を着て、腰のベルトに短剣と剣をはさんで立っていた。その右半面に特徴的な刀傷がとってみえる。 「見覚えのねえ野郎が一匹混じってるな。」 フォーダートの言葉にティースが答える。 「用心棒でしょうか?」 フォーダートは笑ってそれを否定した。 「多分違うな。あれでも多分学者だろう。奴らが誰か捜しているのを見たからな。まあ、あの様子じゃあ用心棒としても充分通用するがね。あの洞窟の中は危険な場所だからな。絶望する奴、ヤケになる奴・・そして仲間を信用できなくなった奴には死が待っている。あの中に入ったからにはチームワークが必要なのさ。それから、絶対に諦めねえ事もな。」 「おかしらは知ってるんですか?その洞窟のこと?」 「オレは噂で聞いただけさ。」 フォーダートは真剣には取り合わなかった。ティースはそう言うおかしらを見ながら彼の口振りがおかしいのを感じていた。フォーダートの言い方は噂で聞き知ったにしては余りにも断定的で余りにも生々しかった。ティースはフォーダートがこの洞窟に入ったことがあるんじゃないかと疑った。 「さてと・・・奴らのすぐ後ろにつくぞ。」 フォーダートはそういうと望遠鏡をふところにしまった。 ゼンツァード洞窟は山の緑の中にぽっかりと黒い口を開けていた。普通の洞穴とはまた違った感じがするところがまた何となく不気味だった。暗い洞窟の天井にはびっしりとトレイック文字が彫りつけられている。何か呪術的な遺跡だったのだろうか・・・と疑うアルザスの横でその心を見透かしたように、ヨーゼフ博士が言った。 「この遺跡には祭壇があってな、どうやら神殿か何かだったらしい。」 「神殿?何の?」 「何の?・・・と来られてもそれはよくわからんのだ。」 人一倍でかい荷物を背負ったヨーゼフはそういって首を傾げた。ライーザが男性陣に先駆けて洞窟内に足を踏み入れる。 「ねえ、まずは入ってみましょう?」 「そうだな。行こうぜ、博士。」 一歩はいるだけでそこは一種別世界である。洞窟はジメジメしていてヒヤリとした空気が漂っていた。また壁一面にトレイックの紋様が描かれているのが、またいっそう妙な感じがするのであった。それに結構奥深く真っ暗である。 「ねえ、ここの奥に何があるの?」 さきさき進んでいくライーザが、カンテラで灯りを取りながら博士に聞いた。 「奥に祭壇があるはずだ。取りあえずそこまで進め。」 博士はいつものようにぶっきらぼうに応えてライーザに指示する。アルザスがライーザの方に走っていった。「祭壇?」 「あれじゃない? ほら!あっちにある奴。」 ライーザが指さして、そこに走る。入り口からはもう二百メートルほど奥に入っているためか、外の光は入ってこなかった。ライーザのカンテラの光がそこの大きな石の建造物を照らした。 「ねえ。これじゃない?」 ライーザの指さした物はライーザの身長ほどもある大きな高い石でその石には何か幾何学紋様が彫りつけられている。アルザスが走り寄ってきてライーザの指さした石を見てみた。 「なあに?これ?」 「さあ、オレにはただの難しい模様としか思えねえしな。おーい!博士っ!出番だぞ!」 「軽々しく人を使うなっ!だいったい、その石はとっくに調査済みだ!」 博士はぶつぶついいながら駆けてくると、とっくに解読のすんだその碑文を読み始めた。 「これもトレイック文字の一つだ。つまり・・・『我らが勇士を讃える。全ての謎をとくべし・・・。』と書かれておるのだ。」 「何だそりゃ?」 「意味がわからん。だからこの遺跡はメジャーにならなかったのだ。」 ヨーゼフ博士はブツクサ言うと、ふと何か思いだしたのか碑石をじっと眺め始めた。 「どうしたの?」 「いや、なにか一つ思い出したのだが・・・そうそう!これだ・・・。ここに謎の水晶玉がはまっているのだ。抜くのもわるいからそのまま放っておいたのだが・・・。これが何かあるかな?」 「水晶玉?」 アルザスがしゃがみ込んでヨーゼフの横で呟いた。その水晶玉は、拳ほどの大きさもない小さな物でカンテラの光を浴びて、紅く輝いていた。 「地図と関係あるんでしょ?じゃあ、地図をここにかざしてみるとかじゃないの?」 いつの間にか同じようにしゃがみ込んでいたライーザが横から言うとアルザスがあきれた表情をする。 「いくらなんでも、そんな単純な・・・。」 「いや、意外とうまいこといくかもしれん。今までここに地図を持ってきて実験したことはないからな。」 ヨーゼフが興味深そうにうなずいた。ライーザが得意げに笑った。 「ほーら、あんたはひねくれてんのよ。」 「何だとお!じゃあ、やってみろよ!できたらオレ、何でもやってやらあ!」 「いいわよ!」 ライーザは自信満々でポケットから出してきた革袋の中の地図を広げた。 「見てなさいよ!」 彼女は水晶玉の前に『知らずの地図』を広げてみせる。五秒ほど沈黙が流れた。 「あ・・・あれ・・?」 ・・・・別に変化は起こらないようだ。アルザスが勝ち誇った笑みを口に乗せて笑った。 「ほら!何もおこらねえだろ!きっともっとひねってないとダメなんだぜ!」 「そんな・・・。」 ライーザが反論しかけたとき、突然ドーンと地面に衝撃が走った。 「わっ!」 「地震かっ!大きいぞ!」 ヨーゼフ博士が顔色を変える。地面の揺れはなかなかおさまらず、すぐに立ち上がれるような生半可な物でもなかった。立ち上がりかけていたアルザスはそのままこけてしまい、腰を強打した。みんな地震に翻弄されていた。洞窟が崩れるのではないかと心配だったが、やがて揺れはおさまった。 アルザスは、強打した腰をさすりながら立ち上がる。 「いてーな・・・。何だったんだ?」 ライーザはスカートを払ってカンテラをつかんで、あたりを見回した。 「あ!」 彼女の驚きの声にアルザスがそちらを向く。 「ねえ、あれ・・・何だと思う?」 ライーザの視線を追う。アルザスの目に不思議な平べったい石の台が見えた。 「あれ・・?あんなものさっきはなかったよな・・・?」 「なかった!私が言うんだから間違いないが・・・以前あんな物はなかった。」 ようやく立ち上がったヨーゼフが無愛想ながら興奮していった。 「じゃ・・・。」 「じゃあ、これがあの地図を水晶にかざしてみた結果ってわけ?」 「そう見るしかあるまい。」 アルザスはその石の台に近づいてみる。何の変哲もない平べったい石で高さはアルザスの膝小僧ほど、大きさは五、六メートル四方ほどの石である。本当に何の変哲もない。 「何なんだろうな・・・これからどうしろってんだろ・・。」 彼はそう言いながら取りあえず石の台に片足を乗せてみた。すると石の台が急に下がり始めたのである。 「わっ!し、下に下がってるぞ!この石!」 アルザスは大慌てして、石の中に転びこんだ。それを見ていた博士がわかったように叫んだ。 「それだ!アレに乗るんだ!」 「ええっ!じゃあ、急いで乗らなきゃ!」 二人は慌ててアルザスの後に続いて石に飛び乗った。石はどんどん降下する速度を速めていき、あっという間にどんどんと洞窟の天井が遠のいていった。 「エレベーター・・・みたいね・・。石の・・。」 ポツリとライーザが言った。暗くてどういう構造なのかはいまいちはっきりしないが、石はどこまでもどこまでも降下していった。 「なるほど・・・こういうからくりかあ・・・。」 「素晴らしいッ!人間生きててこういうことがなければなあっ!」 隣で感動して絶叫するヨーゼフ博士を無視してアルザスはライーザに向き直る。 「何だかすごいな。あんな単純なことだけなのにさ・・・。」 「この地図って本当にすごい地図なのよ!これからもっと大切に扱わなきゃあね。」 「そうだなあ・・。いままでポケットにつっこんでただけだもんな。」 「こらっ!貴様ら何という杜撰な扱いを!それは本当に貴重なもんなんだぞ!」 ヨーゼフ博士がグワッと振り向き、鬼のような形相で怒鳴りつけた。 「地図と一緒にダンス踊ってた奴に言われたくもないぜ・・。」 アルザスが小声で悪態をついていると突然ライーザが彼を突っついた。 「な、なんだよ?」 「あたし・・・忘れてないわよ。」 ライーザの唇に小悪魔っぽい笑みが浮かぶ。 「な、何をだよ?」 「さっき、あんた。あたしの作戦が当たったら何でもやるっていったわよね・・・?あたしはちゃあんと覚えてますからね。後で、何してもらおうっかしら〜。」 ライーザは楽しそうにそして意地悪っぽく笑った。すっかり忘れていたアルザスは慌てた。 「う・・・お前な・・・。」 「言い訳無用よ。アルザスは一度言ったことを破ったりしないわよねえ?あんた男ですものね?」 ライーザに言われてアルザスは青ざめる。それを言われると弱い。ごまかしようが無くなってしまったのだ。 「さあて・・何してもらうか・・・今の内に考えとこ。」 ライーザの可愛い顔は今のアルザスには逆十字の男よりよっぽど恐ろしい悪魔に見えていた。 逆十字のフォーダート及びその手下二人は、エレベーターとなる石のプレートを眺めていた。。 「まあ、このくらいは当たり前だな。」 フォーダートは腕組みをし、相変わらず張り付いたような笑みを浮かべていた。 「おかしら・・・奴らこの中へ?」 「ああ。そう言うことだ。」 そう言うフォーダートに厳しい観察の目を向けながらティースは鋭く尋ねた。 「おかしら・・・おかしらは昔ここに来たことがあるんじゃないですか?なんだか良くお知りですね。」 フォーダートは苦笑して、手を振った。 「馬鹿言え・・・。そんなわけねえだろ・・。オレは知識があるだけさ。来たことなんかねえよ・・。」 いいながらフォーダートはマッチを擦り、カンテラを二つに増やした。 「ディオール、お前が持ってな。ティースは多少夜目がきくからな。」 「は、はい。」 ディオールが遠慮がちにおかしらさまからカンテラを受け取った。 (おかしらって・・・何だか火をつける仕草が似合うなあ。タバコでも吸えばかっこいいのに・・・。) 彼は思わず思ってからはっとする。そういえば・・・フォーダートはタバコを吸わないのである。それどころからタバコの匂いをさせていることがない。ひょっとしたら「吸わない」のでなく「吸えない」のかも知れない。そう思い返せば、タバコを吸う人間と話をしているときのフォーダートはかなり不機嫌で、時折咳き込んだりしていた。あまり似合わないが本当は嫌煙家なのかも知れない・・・とディオールは考えついた。「ティース・・・お前、何かオレを誤解しているようだから言っておいてやるが・・。」 フォーダートはニヤニヤ笑っていった。 「オレは、あの“ダルドラ”って奴があの地図を振り回してた頃はオレはまだ青二才のケチな下っ端だったんだぜ?もちろん奴と面識もなかったしな。言わなかったか?地図を奴から譲り受けたときにここのことを聞き出しておいたんだよ。・・・ただそれだけのことさ。それからあいつはあっけなく死んじまったし・・・馬鹿だよなあ。どうして自分の手で海の底に沈めなかったんだか・・・・。オレがこんなに苦労することもなかったのによ。」 「その人自身・・・沈めるのが惜しかったんじゃねえですか?価値のあるもんなんですから。だからお頭に託したんですよ。おかしらは沈めるのが惜しかったでしょう?」 ティースがいうとフォーダートは口の端を歪めて笑った。だが、その表情に複雑な物があるのをティースは感じ取った。そしておかしらは苦々しく言った。 「・・・かもな。」 言って、フォーダートはふと後ろを向いた。なにか足音を聞きつけたのである。それも一人や二人ではない足音であった。彼は、ワザとおどけた口調で言った。 「おっと、そろそろお客さんがご到着したようだ。さて、目に触れねえうちに行くぜ。」 フォーダートは石のプレートに飛び乗った。慌てて二人の手下もそれに続く。石ははじめはゆっくりとやがて速度を上げながら降下していった。 「わっ・・・すごーい!」 素直なディオールがごく素直に感嘆の声を上げた。 「まっ、古代文明の残り火だがな・・。」 フォーダートはそう言って、懐の拳銃を取り出すとその装填を確かめ始めた。 「お客はプロだからな。こっちも本腰入れねえと命がいくつあっても足りねえぜ。」 ここに来てからのフォーダートはどうも様子がおかしい。それだけにフォーダートの本性に近づけもするが、踏み入ってはいけないような気もするのだった。ティースがそんな彼を見ながら尋ねた。 「おかしら・・・お客って?」 フォーダートは嫌悪をその表面だけの笑みに隠していった。 「レッダー大佐さ・・・。」 ・・・冷たい洞窟の中に六人ほどの男達が居た。五人は屈強な身体をしており、すぐに職業軍人だとわかるだろう。その中心にどちらかというとほっそりしたレッダー大佐が居るのだった。 「大佐・・・。」 兵士に呼びかけられ、レッダー大佐は振り向く。『先客』は影も形もなかった。奥に入ってしまったのだ。 「ふむ・・。」 レッダー大佐はため息をついた。 「『先客』の『地図』を奪うのが任務だ。その為には何をやってもかまわんが・・・この洞窟を破壊するような行為は慎め・・・。特に我々は、ナトレアード政府の認可を受けずに行動している。政府に我々の仕業だと気付かせるような真似はよすんだ。」 「はっ!」 五人の屈強な兵士はきちりと復唱した。レッダー大佐はうなずき、独り言のように言った。 「あの地図は他の手には渡せない。あの地図の宝を見つけた物は世界を破滅させることだって出来るのだからな・・。我がデライン国意外には渡せない・・・。」 だが、そのレッダー大佐も『先客』が二組居ることを知らなかった。・・・そして、二番目の侵入者が自分たちの同行に気付いていることも・・・・。 ・・・レースは人知れず今始まったのだった・・・・ 戻る 進む 一覧 |
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